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新井 光雄 ジャーナリスト |
元読売新聞・編集委員。 エネルギー問題を専門的に担当。 現在、地球産業文化研究所・理事 日本エネルギー経済研究所・特別研究員、総合資源エネルギー調査会・臨時委員、原子力委員会・専門委員 大正大学非常勤講師(エネルギー論)。 著書に 「エネルギーが危ない」(中央公論新社)など。 東大文卒。栃木県日光市生まれ。 |
「水素社会」は本当にくるか (2017/04/24) | |
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政府は「水素社会」の実現のために関係閣僚会議を発足させたという。悪いことではない。大いにやってほしいと思う反面、今、なぜ、という気がしないでもない。 新エネルギー問題には常につきまとう問題で、何やら政治的な意図でもあるのかとかんぐりたくなる。とはいえ、この会合には安倍首相も参加して、「世界に先駆けて水素社会を実現させる」と述べたという。一応、本格的な動きととらえるべきなのだろう。さらに年内には基本計画を出せ、という指示だ。かなり力が入っているとみて間違いない。 具体的な検討課題は水素ステーションの拡充やら貯蔵施設の保守・管理などで、このなかに規制緩和も含まれるということだ。最初の水素ステーション、言ってみれば「水素スタンド」の拡充には目標があり、現在の90か所を20年度までに160か所。二倍まではいかないがそれに近づける。さらにその5年後に360か所に、といった方向。このためには大幅な立地規制の緩和が必要であるほか、水素自動車の普及という問題も視野にいれていくらしい。目標は20年までに、つまりオリンピックまでに4万台というが現状1800台というから一体どうなっていくのか見当もつきかねる。面白いのはこれで温暖化対策に役立つというウリ。確かに水素エネルギーは燃焼には二酸化炭素を出さない。水素は燃えれば水である。従って水を分解すれば水素ができる。そこで安いその分解手段が手に入るかどうかが大きなカギだが、簡単ではない。以前は原子力の夜の電力で水の分解をするというアイディアがあった。原子力は平準稼働が望まれるから夜間も動く。その余剰電力、原子力で水素を、というわけで荒唐無稽でもない。いや原子力には限らない。ブラジルなどの大容量水力発電の電気で水を分解するという構想も出ていた。そういうこともあってか、今回は海外からの水素調達も検討課題だという。 実は水素エネルギーを初めてみたのは石油危機の直後だった。1974年ごろか。当時の工業技術院に知り合いがいて試験商品があるという。タバコに火をつけるライターだった。あれから40年以上か。水素が日常のエネルギーの小さな一角を占めてきているのは事実だ。成り行きを素直に見守ることにしよう。それにしても「水素社会」は少し大げさだろうが。 |
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