福島 伸享
前衆議院議員 1970年生まれ。東京大学農学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)入省。資源エネルギー庁において、電力・ガスの自由化や原子力立地、科学技術庁に出向して原子力災害対策特別措置法の立案などに従事。東京財団研究員、学習院女子大学大学院非常勤講師、筑波大学客員教授などを歴任。
令和元年の参議院選挙はどこが勝ったのか? (2019/07/29)

自民党は前回当選者からは1議席増、公明党は選挙区改編のメリットもあって6年前から選挙区の当選者が3増であったが、比例票で見てみると自民党は前回比240万票減、公明党は104万票減と投票率の下落以上に減らしていることから、積極的な支持を受けたとは言えないであろう。

一方の野党は、立憲民主党は公示前から8議席増えて躍進したとは言っても、全体の獲得議席では政権転落後の大惨敗の6年前の民主党の参院選の議席と変わらない。新聞の見出しとは異なり、実際には大惨敗したと考えてよい。とりわけ、野党統一候補として戦った一人区で立憲民主党候補は1勝6敗であり、静岡・京都・大阪・兵庫・東京に複数区で立てた目玉候補も落選した。国民民主党は、獲得議席数では無所属で出た国民民主党籍を持つ候補を加えれば現状維持となって健闘したともいえる。しかし、複数区で立てて敗れた候補者は軒並み共産党候補にも及ばず、比例票全体でも共産党や維新にも下回ったため、もはや第三極としての位置付けすら失ってしまうような結果となった。共産党も1議席増ではあるが、比例票の下落率は-25%と主要政党中最大であり、歴史的な惨敗と言える。

このように、選挙前の主要与野党のいずれもが勝ったとはいえない選挙にあって、元祖第三極の日本維新の会は3議席増。そして、テレビなどの既存メディアにはほとんど取り上げられず「キワモノ」と見られていた山本太郎率いるれいわ新選組は、山本太郎候補が全候補中最多の99万票を獲得して落選したもの2議席を獲得し、NHKを国民から守る党も最後の1議席に滑り込んだ。憲法にしても、経済政策にしても、年金をはじめとする社会保障政策にしても、脱原発をはじめとするエネルギー政策にしても、既存政党の訴える政策に本気度が感じられず、多くの国民の心を動かすことがなかったことが、このような未知の第三極が議席を獲得する結果になったのではないか。

私の地元の茨城県では、定数2で通常は与野党が議席を分け合う無風の選挙区に、自民党現職、立憲民主党新人、共産党新人、維新新人、N国新人の5名が立候補した。東海第二原発の再稼働問題を抱える中で、立憲民主党、共産党、日本維新の会の新人候補らは、そのトーンは若干違うものの脱原発を看板とし、東海第二原発再稼働反対を掲げて戦った。参院選に合わせて茨城新聞社が行った県内の世論調査では、東海第二原発の再稼働反対は全体60.8%であり、自民党支持者でも57.3%、公明党支持者では62.5%が反対という結果であった。

この参院選での得票を比例票で見てみると、自民党・公明党と再稼働に反対していない国民民主党の比例を足せば得票率は61.6%、再稼働反対の3党の比例票の合計は29.7%であり、茨城新聞社の世論調査の結果と参院選の結果はまったく一致しない。マスコミが報道するほど東海第二原発の再稼働問題は投票行動を決める争点にはならなかったのである。NHKが参院選の1週間前に実施した世論調査でも、「参院選で最も重視したい政策課題」で挙げられた7つの選択肢のうち原子力政策は最下位のわずか3%であり、これまた安倍総理が力を入れる割には国民的にはほとんど無関心の憲法改正の8%をも大幅に下回っている。これらの数値は、私の地元での皮膚感覚とも一致している。

東日本大震災後、いくつもの政治勢力が脱原発を選挙のたびにその争点に掲げた。一方の与党は、そうした争点を避けるために、エネルギー政策はなるべく触らないようにしてきたように思える。しかし、今回の選挙結果でわかるように、票目当てのスローガンや実現可能性の感じられない観念的な脱原発政策は、国民の心を動かし、政治を動かすような力にはなっていない。むしろ問題は、原子力安全規制の在り方、使用済み燃料の再処理や中間貯蔵、核燃料サイクル政策の方向性、原子力産業の再編など山のように積み重なっている目先の現実的な問題を先送りし、逃げ続けている政権与党の不作為こそが、日本のエネルギー政策を不透明なものにしているのではないか。

テレビに出なくとも、本気の訴えを街頭演説で繰り返し行って全国で比例の230万票を獲得した山本太郎氏を、少しは見習った方がいいのかもしれない。
記事一覧
2019/07/29
令和元年の参議院選挙はどこが勝ったのか?
7月21日投開票の参議院選挙は、50%を下回る低投票率の下、与党が改憲発議に必要な2/3には届かなかったものの71議席の多数を獲得した。
2019/06/25
これから始まる選挙の前に
 これを書いている時点では、通常国会が開会中であり、一時の解散風がぱたりと止んでいて、会期延長をせずに衆参同日選挙を行う可能性が小さくなったと報道されている。私自身、解散総選挙になれば候補者になる身であるが、とりあえず参議院選挙前ということを前提として、雑感を記したい。
2019/05/20
原子力規制委員会のテロ対策に意味はあるのか?
 先月、原子力規制委員会は原子力発電所に設置を義務付けているテロ対策施設について、期限内に完成できない原発については運転停止を命ずる方針を決定した。この方針どおりに行政措置が講じられることになれば、現在稼働している九州電力の川内原発など関西・四国・九州の10基程度の原発が運転停止となる可能性がある深刻な問題である。
2019/04/08
新元号の発表に寄せて
 4月1日に新しい元号「令和」が発表された。これについて、本来私たちが特段の講評をすべきものではないと考えるが、響きもいいし、万葉集の題詞中の「初春令月、気淑風和、梅披鏡前之粉、蘭薫珮後之香」から引用しているのもいい。これまでの元号とは異なり特段の哲学や思想性を感じないのが現代らしいが、漢文の初歩的な素養があれば、「梅」や「蘭」という字を見ればこの万葉の詞は支那の影響を大きく受けていることもわかる(現に漢書の『文選』にある帰田賦を踏まえている)。
2019/03/04
東海第二原発住民説明会に参加して
 日本原電は、2月22日に茨城県に対して東海第二発電所を再稼働させる方針を表明したが、それに先立つ1月17日に水戸市内で茨城県が主催する「東海第二発電所の新規制基準適合性審査等の結果に係る住民説明会」が開催され、私もこれに参加してきた。
2019/01/28
経団連・日立製作所の中西会長が問いかけるもの
 年末年始にかけて、経団連の会長であり、原発メーカーの日立製作所の会長でもある中西宏明氏による一連の発言が、さまざまな波紋を呼んだ。12月17日の記者会見では、日立製作所が英国で進める原発の新設計画について、「民間の投資対象とするのは難しくなった」として「もう限界だと英政府に伝えた」と述べた。
2018/12/17
実は「脱原発」の安倍政権?
 前回の拙稿で私は、東海第二原発の再稼働をめぐって国の原子力政策の不在について論じた。そして、この臨時国会で外国人労働者導入が大きな争点となった陰で、原子力損害賠償法改正法案がひっそりと成立した。
2018/11/12
東海第2原発の運転延長認可の先にあるもの
 11月7日に、日本原電の東海第2原発の運転延長の認可が原子力規制委員会から下りた。福島第1原発と同じBWRでの延長認可は、初めてのことである。これによって、法律に基づく安全性審査をすべてクリアし、あとのハードルは東海村と隣接する6市村の安全協定に基づく同意となったと報道されている。
2018/10/09
沖縄県知事選挙とは何だったのか?
 9月に行われた沖縄県知事選では、野党系の玉木デニー氏が与党系の佐喜真淳氏を大差で破り当選した。世論調査では、基地問題が一番の有権者の関心ごとだったと言われている。しかし、実際のところは、与党が組織戦に力を入れれば入れるほど、本土対沖縄の構図が出来上がり、ウチナーンチュの本土の人には見せない本土への対抗意識が表面化したのではないか。選挙戦の真っ最中、相手地盤の建設会社を回ったときそう感じた。
2018/09/03
小泉元総理の脱原発論の単純さ
 世論調査を行うと、脱原発を支持する国民は多い。しかし、脱原発を争点とした選挙で脱原発派が当選することは少ない。有権者は、観念的なエネルギー政策よりも、現実に即した具体的な政策を求めているのである。小泉純一郎元首相は、脱原発を旗印にした野党再編のキーマンになろうとしているが、旧来の左翼陣営のような観念的な脱原発にとどまっている限りは、それが国民の多くを動かすような動きにはならないだろう。
2018/07/23
日米原子力協定の自動延長は何を意味するのか?
 7月に日米原子力協定が自動延長された。これは、今後いつでも一方の国の勧告で協定を終了させることができる「サドンデス」期間に入ったことを意味する。協定が失効すれぱ、日本側では大きな混乱となる。一方、米国側が失うものはほとんどない。米国としては、エネルギー政策のみならず、対日外交上の大きなカードを得たことになる。
2018/06/18
新潟県知事選挙に見る選挙と原子力
 6月10日に行われた新潟県知事選で、与党系候補の花角英世氏が当選した。花角新知事は原発の是非について、米山隆一前知事の路線を継承するという。これまで、細川護熙元首相が出馬した東京都知事選などで、原発が争点となった。しかし、脱原発派が劇的な勝利を収めて政策の変更が行われたケースは少ない。国民は、観念的な政策よりも、現実に即した政策を求めているのである。
2018/05/14
第5次エネルギー基本計画に期待する
 第5次エネルギー基本計画の骨子案が総合資源エネルギー調査会で公表された。骨子案では、再生可能エネルギーについて、「ほかのエネルギー源の革新を誘発」するものだとする。一方、原子力については、「重要なベースロード電源」ではあるが、その依存度は可能な限り低減させるとしている。このような目標に対し私は「原子力か脱原発か」という2元論でなく、技術革新の可能性と不確実性を前提として、複線的なシナリオを用意しようとしている点で評価したい。
2018/04/02
森友学園問題とエネルギー政策
 森友学園問題が再燃している。当初安倍総理夫妻は、「保守ビジネス」の被害者ではないかと思っていた。しかし、経産省から出向している首相夫人付の関与や、財務省の決裁文書改ざんなどの問題が明らかになり、安倍政権の権力構造そのものの問題があぶり出されるようになった。第二次安倍政権は、経済産業省人脈がその屋台骨を支えている。しかし、森友問題をきっかけに、その運営に疑問が沸き起こり、安倍政権の行方も不透明なものになってきている。
2018/02/26
厳寒の電力不足で考えたこと
 東京電力が1月24日に節電を呼びかけた。22日から降り始めた大雪の影響によるもので、最近は夕方の暖房需要が綱渡りになっているようだ。太陽光発電の比率が高まったことによる構造的なも問題もあるという。FITの下で今後とも再生可能エネルギーの導入は増えていくだろう。規制の適切化、燃料調達環境の整備など、政策のきめ細かいミックスを図っていくことが急務だ。
2018/01/22
「エネルギー基本計画の見直しに必要な論点」 (福島伸享、1月22日)
 今年は、昨年から総合資源エネルギー調査会で始まったエネルギー基本計画見直しの議論が本格化する年だ。その中で原子力の位置づけは、脱原発を目指す政治勢力にとって最大の論点になる。例えば、脱原発派にとって原子力は、「原子力ムラの既得権益の確保」とみるだろう。一方、エネルギー政策を立案する立場からすれば、3E(安定供給、経済性、環境)の政策目標を達成するための帳尻合わせに一番便利なのが、原子力である。政府がエネルギー政策の帳尻を合わせに、今後も原子力に一定の役割を位置づけるのであれば、すべては絵に描いた餅になり、日本のエネルギー政策が抱える問題は解決しないだろう。