福島 伸享
前衆議院議員 1970年生まれ。東京大学農学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)入省。資源エネルギー庁において、電力・ガスの自由化や原子力立地、科学技術庁に出向して原子力災害対策特別措置法の立案などに従事。東京財団研究員、学習院女子大学大学院非常勤講師、筑波大学客員教授などを歴任。
実は「脱原発」の安倍政権? (2018/12/17)

 東京電力福島第一原発事故によって、既存の原子力損害賠償制度では、積立額では対応しきれない賠償請求がなされる可能性があること、一民間会社が無過失無限責任を負うことのリスクが高すぎること等の大きな問題があることが露呈し、制度の根本的な見直しが必要なことが明らかになったことを背景としている。
 私は、民主党政権時代に風評被害に苦しむ被災地の与党議員として、平成23年4月27日の経済産業・内閣委員会連合審査で原賠法3条1項ただし書きの「その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたものであるとき」に無限責任を逃れる規定を適用して、国が前面に出た迅速な対応をすべきことを主張した。「今回は、国の規制が想定していたレベルを超えた天災なわけです。政府としては、本来はあらゆる災害に対応した規制をとったと言わざるを得ない・・・もしそれを想定した規制を行っていなかったとすれば、それは行政の過失である・・・どちらにしたって、電力事業者がすべての責任を負うことはできない。規制のミスか、もしくは規制当局すらも最新の科学的知見では予見できなかった大きなことであるとするならば、三条ただし書きなんですよ」と。
 しかし結局、3条1項ただし書きは適用されず、東京電力はご存知のような結果となってしまった。このような原子力損害賠償制度の下では、民間事業者が原子力事業を行うにあたってのリスクはヘッジされず、新たな原発の新設は一度事故が起これば会社が存続できなくなるほどの極めて大きなリスクを抱えることになってしまう。であるから、この原賠法の見直しを行うことになったはずである。ところが、今回の改正法案では無過失無限責任は変わらず、適用されなかった「3条1項ただし書き」の規定もその適用があいまいなまま、積立上限額も1,200億円のまま据え置きであり、問題の本質は何も解決されていない。
 本年7月に閣議決定された第5次エネルギー基本計画では「現段階で完璧なエネルギー源は存在しない」として原子力の聖域化を否定しつつ、エネルギーミックスと脱炭素化の実現に向けて、非連続の技術革新とエネルギー産業・金融対話の実行を促している。民間の資金も活用しながら、産業界の活力を使って今後のエネルギー政策を進めていくのであるとするならば、今回の原賠法改正は民間が原子力に関わることへのディスインセンティブになるだけだ。だから私は、日本原電の今後の位置付けを含めた原子力産業の在り方の議論から国は逃げ続けていることも含めて、実は安倍政権は実態上「脱原発」を進めているのではないかと皮肉を言っているのである。「脱原発」を唱える勢力は、安倍政権を歓迎すべきなのかもしれない。
 基本計画で原子力を「脱炭素化の選択肢」と位置付けて継続しようとしながら、政策上は結果的に「脱原発」になってしまっている、というのはあまりに無責任に過ぎるのではないか。この無策の間に政策経費は浪費され続け、本質的なエネルギー構造の転換は先送りになってしまう。なし崩しの「脱原発」を惰性で続けていくうちに、この国は無為な時間を過ごし、エネルギー政策にとって決定的なものを失ってしまうのではないか。
 私は、経済産業・内閣委員会連合審査での質疑の最後に、「既存の法律どおりの解釈であるのでれば、政治家は要らないんですね。今の事象に合わせてどういう法律をつくるかというのを考えるから、我々は立法府にいるわけです」と言っている。将来の日本のエネルギー産業をどうするのか、その中で原子力の位置付けや役割分担をどうするのか、今こそ政治家が考えなければならない時はないのではないか。
記事一覧
2018/12/17
実は「脱原発」の安倍政権?
 前回の拙稿で私は、東海第二原発の再稼働をめぐって国の原子力政策の不在について論じた。そして、この臨時国会で外国人労働者導入が大きな争点となった陰で、原子力損害賠償法改正法案がひっそりと成立した。
2018/11/12
東海第2原発の運転延長認可の先にあるもの
 11月7日に、日本原電の東海第2原発の運転延長の認可が原子力規制委員会から下りた。福島第1原発と同じBWRでの延長認可は、初めてのことである。これによって、法律に基づく安全性審査をすべてクリアし、あとのハードルは東海村と隣接する6市村の安全協定に基づく同意となったと報道されている。
2018/10/09
沖縄県知事選挙とは何だったのか?
 9月に行われた沖縄県知事選では、野党系の玉木デニー氏が与党系の佐喜真淳氏を大差で破り当選した。世論調査では、基地問題が一番の有権者の関心ごとだったと言われている。しかし、実際のところは、与党が組織戦に力を入れれば入れるほど、本土対沖縄の構図が出来上がり、ウチナーンチュの本土の人には見せない本土への対抗意識が表面化したのではないか。選挙戦の真っ最中、相手地盤の建設会社を回ったときそう感じた。
2018/09/03
小泉元総理の脱原発論の単純さ
 世論調査を行うと、脱原発を支持する国民は多い。しかし、脱原発を争点とした選挙で脱原発派が当選することは少ない。有権者は、観念的なエネルギー政策よりも、現実に即した具体的な政策を求めているのである。小泉純一郎元首相は、脱原発を旗印にした野党再編のキーマンになろうとしているが、旧来の左翼陣営のような観念的な脱原発にとどまっている限りは、それが国民の多くを動かすような動きにはならないだろう。
2018/07/23
日米原子力協定の自動延長は何を意味するのか?
 7月に日米原子力協定が自動延長された。これは、今後いつでも一方の国の勧告で協定を終了させることができる「サドンデス」期間に入ったことを意味する。協定が失効すれぱ、日本側では大きな混乱となる。一方、米国側が失うものはほとんどない。米国としては、エネルギー政策のみならず、対日外交上の大きなカードを得たことになる。
2018/06/18
新潟県知事選挙に見る選挙と原子力
 6月10日に行われた新潟県知事選で、与党系候補の花角英世氏が当選した。花角新知事は原発の是非について、米山隆一前知事の路線を継承するという。これまで、細川護熙元首相が出馬した東京都知事選などで、原発が争点となった。しかし、脱原発派が劇的な勝利を収めて政策の変更が行われたケースは少ない。国民は、観念的な政策よりも、現実に即した政策を求めているのである。
2018/05/14
第5次エネルギー基本計画に期待する
 第5次エネルギー基本計画の骨子案が総合資源エネルギー調査会で公表された。骨子案では、再生可能エネルギーについて、「ほかのエネルギー源の革新を誘発」するものだとする。一方、原子力については、「重要なベースロード電源」ではあるが、その依存度は可能な限り低減させるとしている。このような目標に対し私は「原子力か脱原発か」という2元論でなく、技術革新の可能性と不確実性を前提として、複線的なシナリオを用意しようとしている点で評価したい。
2018/04/02
森友学園問題とエネルギー政策
 森友学園問題が再燃している。当初安倍総理夫妻は、「保守ビジネス」の被害者ではないかと思っていた。しかし、経産省から出向している首相夫人付の関与や、財務省の決裁文書改ざんなどの問題が明らかになり、安倍政権の権力構造そのものの問題があぶり出されるようになった。第二次安倍政権は、経済産業省人脈がその屋台骨を支えている。しかし、森友問題をきっかけに、その運営に疑問が沸き起こり、安倍政権の行方も不透明なものになってきている。
2018/02/26
厳寒の電力不足で考えたこと
 東京電力が1月24日に節電を呼びかけた。22日から降り始めた大雪の影響によるもので、最近は夕方の暖房需要が綱渡りになっているようだ。太陽光発電の比率が高まったことによる構造的なも問題もあるという。FITの下で今後とも再生可能エネルギーの導入は増えていくだろう。規制の適切化、燃料調達環境の整備など、政策のきめ細かいミックスを図っていくことが急務だ。
2018/01/22
「エネルギー基本計画の見直しに必要な論点」 (福島伸享、1月22日)
 今年は、昨年から総合資源エネルギー調査会で始まったエネルギー基本計画見直しの議論が本格化する年だ。その中で原子力の位置づけは、脱原発を目指す政治勢力にとって最大の論点になる。例えば、脱原発派にとって原子力は、「原子力ムラの既得権益の確保」とみるだろう。一方、エネルギー政策を立案する立場からすれば、3E(安定供給、経済性、環境)の政策目標を達成するための帳尻合わせに一番便利なのが、原子力である。政府がエネルギー政策の帳尻を合わせに、今後も原子力に一定の役割を位置づけるのであれば、すべては絵に描いた餅になり、日本のエネルギー政策が抱える問題は解決しないだろう。