福島 伸享
前衆議院議員 1970年生まれ。東京大学農学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)入省。資源エネルギー庁において、電力・ガスの自由化や原子力立地、科学技術庁に出向して原子力災害対策特別措置法の立案などに従事。東京財団研究員、学習院女子大学大学院非常勤講師、筑波大学客員教授などを歴任。
新潟県知事選挙に見る選挙と原子力 (2018/06/18)

 東京電力柏崎刈羽原発の再稼働が争点と言われた6月10日投開票の新潟県知事選挙は、与党系候補の勝利で終わった。森友・加計問題などの国会運営で安倍政権の支持率が低迷する中で、事前の予想では大接戦と言われていたが、結果的に4万票近い差がついた。野党系候補は、再稼働反対を最大の争点にしてきたから、今回の結果で再稼働に向けた道筋がつくかと言えば、そうではあるまい。

 新知事は、公約で「原発については3つの検証(福島原発事故の原因、健康・生活への影響、避難計画)をしっかり進め、その結果を見極めます。将来的には原発に依存しない社会を目指し、県民の安全・安心を守ります」として前知事の路線を継承することにした上で、「結論を受けて県民の信を問うことを考えます」と踏み込んでいる。これまでの知事に比べて、政権に近く、経歴や仕事の仕方からみれば冷静にコミュニケーションがとりやすい人物であるのは確かであろうが、ここまで言っておいて1,2年で物事を動かすことはできないであろう。

 そもそも、脱原発か否かは選挙の争点になるのであろうか。朝日新聞の出口調査によると、再稼働反対は65%で賛成の30%を凌駕しているが、投票の際に最も重視した政策の1位は原発への対応であるものの有権者の28%に過ぎず、景気・雇用の25%と大差ない。しかも再稼働反対派の37%は与党系候補に投票していたというから、野党系候補が言うほど原発は決定的な争点となっていないのである。

 これまで細川元首相が出馬した東京都知事選挙をはじめとしてさまざまな選挙が原発を争点として行われてきたが、脱原発派が劇的な勝利を収めて、政策の変更が実現するようなケースは国政も含めてあまりない。私自身、何度も選挙戦を東海第二原発の隣接地で民主党・民進党系候補として戦ってきて、地元にも脱原発を唱える有権者や「脱原発を明確にせよ」とアドバイスする関係者は多いが、実際にはそれだけを焦点として投票の判断ポイントとしている有権者は少ないように感じる。

 原子力に依存しないエネルギー政策を求める国民はかなりの多数となるが、有権者は意外と冷静であって、選挙目当てに脱原発ばかりを連呼する候補者や原発と再生可能エネルギーの単純な二者択一を迫る候補者に投票しても、現実に物事が変わることはないと見極めている。観念的なエネルギー政策よりも、現実に即した具体的な政策を求めているのである。このように考えると、一見声の大きい「脱原発」の世論におののいて、何かをベールに包んだり、ためらう必要はない。一方で、コソコソと現状の原子力政策を続けようとしても、どこかで反発が起こる。今必要なことは、政府のエネルギー情勢懇談会の議論にあるように、中長期的な技術の可能性や地政学的リスク、金融を含む事業の可能性などを見極めた上であらゆる選択肢を客観的、科学的に分析したエネルギー政策の立案である。政治や世論を理由にして、それを怠ってはならない。

(投開票日の翌日に記す)
記事一覧
2018/06/18
新潟県知事選挙に見る選挙と原子力
 6月10日に行われた新潟県知事選で、与党系候補の花角英世氏が当選した。花角新知事は原発の是非について、米山隆一前知事の路線を継承するという。これまで、細川護熙元首相が出馬した東京都知事選などで、原発が争点となった。しかし、脱原発派が劇的な勝利を収めて政策の変更が行われたケースは少ない。国民は、観念的な政策よりも、現実に即した政策を求めているのである。
2018/05/14
第5次エネルギー基本計画に期待する
 第5次エネルギー基本計画の骨子案が総合資源エネルギー調査会で公表された。骨子案では、再生可能エネルギーについて、「ほかのエネルギー源の革新を誘発」するものだとする。一方、原子力については、「重要なベースロード電源」ではあるが、その依存度は可能な限り低減させるとしている。このような目標に対し私は「原子力か脱原発か」という2元論でなく、技術革新の可能性と不確実性を前提として、複線的なシナリオを用意しようとしている点で評価したい。
2018/04/02
森友学園問題とエネルギー政策
 森友学園問題が再燃している。当初安倍総理夫妻は、「保守ビジネス」の被害者ではないかと思っていた。しかし、経産省から出向している首相夫人付の関与や、財務省の決裁文書改ざんなどの問題が明らかになり、安倍政権の権力構造そのものの問題があぶり出されるようになった。第二次安倍政権は、経済産業省人脈がその屋台骨を支えている。しかし、森友問題をきっかけに、その運営に疑問が沸き起こり、安倍政権の行方も不透明なものになってきている。
2018/02/26
厳寒の電力不足で考えたこと
 東京電力が1月24日に節電を呼びかけた。22日から降り始めた大雪の影響によるもので、最近は夕方の暖房需要が綱渡りになっているようだ。太陽光発電の比率が高まったことによる構造的なも問題もあるという。FITの下で今後とも再生可能エネルギーの導入は増えていくだろう。規制の適切化、燃料調達環境の整備など、政策のきめ細かいミックスを図っていくことが急務だ。
2018/01/22
「エネルギー基本計画の見直しに必要な論点」 (福島伸享、1月22日)
 今年は、昨年から総合資源エネルギー調査会で始まったエネルギー基本計画見直しの議論が本格化する年だ。その中で原子力の位置づけは、脱原発を目指す政治勢力にとって最大の論点になる。例えば、脱原発派にとって原子力は、「原子力ムラの既得権益の確保」とみるだろう。一方、エネルギー政策を立案する立場からすれば、3E(安定供給、経済性、環境)の政策目標を達成するための帳尻合わせに一番便利なのが、原子力である。政府がエネルギー政策の帳尻を合わせに、今後も原子力に一定の役割を位置づけるのであれば、すべては絵に描いた餅になり、日本のエネルギー政策が抱える問題は解決しないだろう。