福島 伸享
前衆議院議員 1970年生まれ。東京大学農学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)入省。資源エネルギー庁において、電力・ガスの自由化や原子力立地、科学技術庁に出向して原子力災害対策特別措置法の立案などに従事。東京財団研究員、学習院女子大学大学院非常勤講師、筑波大学客員教授などを歴任。
日米原子力協定の自動延長は何を意味するのか? (2018/07/23)

 7月17日に日米原子力協定が自動延長された。「自動延長」というのは、日米原子力協定が第16条第1項において、「この協定は、30年間効力を有するものとし、その後、2の規定に従って終了する時まで効力を存続する」とした上で、第2項において「いずれの一方の当事国政府も、6箇月前に他方の当事国政府に対して文書による通告を与えることにより、最初の30年の期間の終わりに又はその後いつでもこの協定を終了させることができる」とされていることに基づく。つまり、協定は本来30年間の効力であり、その後はいつでも一方の国の通告で終了させることができるいわば「サドンデス」に入った、ということである。

 自動延長されたから「ひとまず安心」と考える関係者もいるであろうが、私は新たに突入したこのサドンデス期間は、これまでの日米間の原子力協力の関係とは全く別のフェーズに入ったものと考える。この協定が失効すれば、日本側は大きな混乱となるが、米国側が失うものはほとんどない。サドンデス期間は、一方からの通告のみでいつでも協定を終了できるから、米国としてはエネルギー政策のみならず対日外交上の大きなカードを得たことになる。現在トランプ政権は、鉄鋼や自動車などの関税の一方的な引き上げを行おうとしているが、これは世界貿易機関(WTO)における安全保障の例外規定に根拠を求めて行っているものである。これ自体怪しげな根拠であるが、同様に日米原子力協定の破棄をちらつかせての貿易交渉やその他の外交交渉が行われ可能性が生まれたのではないか。

 このことは、原子力問題がエネルギー問題を超えた外交ディールの俎上(そじょう)に上がることを意味する。日米原子力協定が自動延長されたことを契機に、再稼働・プルサーマルを進めて余剰プルトニウムを消費すべきとの論調もあるが、それだけでは日米関係の喉のつっかえとなったこの協定に対する懸念を払拭できないだろう。そもそも、この協定が作られた30年前は、我が国や世界中が高速増殖炉開発を競って行っていた時代である。しかし、今やそのような熱気はなくなり、我が国ではもんじゅの廃炉が決定され、フランスのASTRID計画も迷走気味の中にあって、なぜ日本が使用済み燃料を再処理してプルトニウムを生み出さなければならないのか、そもそも六ヶ所村の再処理工場を何のために稼働させるのか、今の日本のエネルギー政策では明確に説明することができない。

 先日新たに閣議決定されたエネルギー基本計画でも、「核燃料サイクルについて、これまでの経緯なども十分に考慮し、引き続き関係自治体や国際社会の理解を得つつ取り組むこととし、再処理やプルサーマル等を推進する」とされているだけである。高速増殖炉の開発などは「プルサーマル等」の「等」に埋め込まれているだけで、プルトニウムを利用してどのようなエネルギー供給を目指しているのか、何ら新しい方向性は示されていない。私は、本来協定第16条第1項に基づく「自動延長」ではなく、この第16条第1項自体を改正して効力を有する期間を延長する交渉を我が国から働きかけるべきであったと考えるが、条約改定交渉を行った場合に米国議会へ説明できるような日本のエネルギー政策が確立されていないため、それができなかったのであろう。

 サドンデスの日米原子力協定の自動延長により、我が国の原子力政策、エネルギー政策は外圧によって一夜にして変更を迫られる状況となってしまった。このことを深刻に自覚した上で、現状維持でも、課題先送りでもない核燃料サイクル政策についての基本的な政策を確立すべきであろう。エネルギー基本計画には、「核燃料サイクルに関する諸課題は、短期的に解決するものではなく、中長期的な対応を必要とする」と暢気なことが書かれているが、何もしないことが我が国にとっての大きなリスクになるのである。

記事一覧
2020/05/25
検察庁法以外にもある、この国会での火事場泥棒法案
検事総長等の定年延長を可能とする検察庁法改正が含まれた法案は、ネット上での反対運動の盛り上がりから国民的な関心を呼び、今国会での採決が見送られた。新型コロナウイルス対応の陰に隠れて火事場泥棒的にスジの悪い法案を通そうとした、と思われたことも世論の反感を生んだ一つの理由であろうが、この国会にはまだ火事場泥棒法案が提出されており、可決される見通しだ。(5月19日現在)
2020/04/13
アベノマスク騒動から見えるもの
安倍総理が満を持して表明した国民一人当たり2枚の布マスク配布政策が、いろいろな波紋を広げているようである。霞ヶ関発の政策には、実はそもそもその目的があいまいだったり、おかしなものも多いが、今回も何のためにこの政策を実施するのかをまず検証しなければならない。
2020/03/09
新型コロナウイルスへの対応に見る日本政府の構造的欠陥
 今回の新型コロナウイルスへの日本政府の対応について、いろいろ指摘すべきところはあるが、現在政府関係者たちが懸命の対応に当たっているところであり、個々の事項についての評論は今の段階では避けたい。

 さて、私は1999年9月30日に起こった東海村JCO臨界事故に、翌日から科学技術庁に出向して危機管理対応に当たったり、2011年3月11日に発生した東日本大震災に被災地の与党議員として対応した経験から、この国の統治機構に関する致命的な欠陥を感じており、それが今回も現れたと考える。一つは想定外の事象が生じたときに起こる混乱と、もう一つは科学的知見が生かされないで情緒的に対応が行われることである。この二つはお互いに関連している。
2020/02/03
令和2年のエネルギー政策なきスタート
カルロス・ゴーン日産自動車元会長のレバノンへの逃亡劇騒ぎで明けた令和2年。1月3日には、米国がトランプ大統領の指示によってイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官をドローンによる攻撃で殺害し、中東での戦争の勃発かと一気に世界中の国で緊張が高まった。1月8日のイランによる在イラク米軍基地への報復攻撃は限定的なものであったため、当面の最悪の危機は回避されたが、この間原油価格は乱高下した。
2019/12/23
小泉進次郎環境大臣と原田義昭前環境大臣
 自民党、というよりは日本政界のホープと目されていた小泉進次郎氏が、環境大臣に就任して約3カ月が経った。郵政民営化に大ナタを振るった父小泉純一郎首相を彷彿させるその歯切れのよい発言で、弱小官庁とされた環境省の環境行政にどのような新風を巻き込むのか期待されたが、就任早々国連気候行動サミットに出席するために訪問したニューヨークでの記者会見で「気候変動のような大きな問題は楽しく、クールで、セクシーに取り組むべきだ」と発言して物議をかもした。「ポエム」と揶揄される情緒的で具体的な中身のない数々のやりとりで、将来の日本のリーダーとしての期待に疑問符が投げかけられ始めている。
2019/11/18
千葉大停電の混乱の要因は何か?
9月9日に千葉市付近に上陸した台風19号によって千葉県内に大規模な停電が発生し、その復旧作業に多大な時間を要した。とりわけ、9月10日午後7時の記者会見で11日中に完全復旧させると発表しながら、翌日には11日中に完全復旧させるのは難しいと発表し、さらに長い時間がかかったことが混乱を呼び、東京電力に対する批判が高まった。
2019/10/15
JCO事故20周年を迎えて≪①≫
この間、今国会で大きな問題となっている関西電力の高浜での不透明なカネの問題、千葉県等の台風対応の問題、福島の処理水の排出の問題など、電力業界をめぐるさまざまな大きな問題が出ていますが、9月30日で私の地元の茨城県東海村のJCO事故20周年であり、私自身その後の災害対応の最前線で携わっていたことから、このことを2回に分けて今回は述べたいと思います。
2019/10/15
JCO事故20周年を迎えて≪②≫
そして、その10余年後。与党の衆議院議員としての立場で、再び3.11東日本大震災による原子力災害に立ち会うことになってしまいました。
2019/09/09
原子力政策の見直しは「まったなし」だ
8月末に、フランスの高速炉実証炉ASTRID計画が中止される方向であるという報道が出された。フランスの有力紙ルモンドも報じていることから、かなり可能性の高いことなのであろう。
平成28年12月の原子力関係閣僚会議で「もんじゅ」の廃炉が決定されたのと同時に、同会議が決定した「高速炉開発の方針」では、ナトリウムが流れる主要機器関連技術や余熱除去・安全対策技術、プラントシステム技術・運転管理保守技術などについては、「ASTRIDを含む海外炉のプラント運転データ・・・等により、「もんじゅ」を再開した場合と同様の知見の獲得を図る」としている。
2019/07/29
令和元年の参議院選挙はどこが勝ったのか?
7月21日投開票の参議院選挙は、50%を下回る低投票率の下、与党が改憲発議に必要な2/3には届かなかったものの71議席の多数を獲得した。
2019/06/25
これから始まる選挙の前に
 これを書いている時点では、通常国会が開会中であり、一時の解散風がぱたりと止んでいて、会期延長をせずに衆参同日選挙を行う可能性が小さくなったと報道されている。私自身、解散総選挙になれば候補者になる身であるが、とりあえず参議院選挙前ということを前提として、雑感を記したい。
2019/05/20
原子力規制委員会のテロ対策に意味はあるのか?
 先月、原子力規制委員会は原子力発電所に設置を義務付けているテロ対策施設について、期限内に完成できない原発については運転停止を命ずる方針を決定した。この方針どおりに行政措置が講じられることになれば、現在稼働している九州電力の川内原発など関西・四国・九州の10基程度の原発が運転停止となる可能性がある深刻な問題である。
2019/04/08
新元号の発表に寄せて
 4月1日に新しい元号「令和」が発表された。これについて、本来私たちが特段の講評をすべきものではないと考えるが、響きもいいし、万葉集の題詞中の「初春令月、気淑風和、梅披鏡前之粉、蘭薫珮後之香」から引用しているのもいい。これまでの元号とは異なり特段の哲学や思想性を感じないのが現代らしいが、漢文の初歩的な素養があれば、「梅」や「蘭」という字を見ればこの万葉の詞は支那の影響を大きく受けていることもわかる(現に漢書の『文選』にある帰田賦を踏まえている)。
2019/03/04
東海第二原発住民説明会に参加して
 日本原電は、2月22日に茨城県に対して東海第二発電所を再稼働させる方針を表明したが、それに先立つ1月17日に水戸市内で茨城県が主催する「東海第二発電所の新規制基準適合性審査等の結果に係る住民説明会」が開催され、私もこれに参加してきた。
2019/01/28
経団連・日立製作所の中西会長が問いかけるもの
 年末年始にかけて、経団連の会長であり、原発メーカーの日立製作所の会長でもある中西宏明氏による一連の発言が、さまざまな波紋を呼んだ。12月17日の記者会見では、日立製作所が英国で進める原発の新設計画について、「民間の投資対象とするのは難しくなった」として「もう限界だと英政府に伝えた」と述べた。
2018/12/17
実は「脱原発」の安倍政権?
 前回の拙稿で私は、東海第二原発の再稼働をめぐって国の原子力政策の不在について論じた。そして、この臨時国会で外国人労働者導入が大きな争点となった陰で、原子力損害賠償法改正法案がひっそりと成立した。
2018/11/12
東海第2原発の運転延長認可の先にあるもの
 11月7日に、日本原電の東海第2原発の運転延長の認可が原子力規制委員会から下りた。福島第1原発と同じBWRでの延長認可は、初めてのことである。これによって、法律に基づく安全性審査をすべてクリアし、あとのハードルは東海村と隣接する6市村の安全協定に基づく同意となったと報道されている。
2018/10/09
沖縄県知事選挙とは何だったのか?
 9月に行われた沖縄県知事選では、野党系の玉木デニー氏が与党系の佐喜真淳氏を大差で破り当選した。世論調査では、基地問題が一番の有権者の関心ごとだったと言われている。しかし、実際のところは、与党が組織戦に力を入れれば入れるほど、本土対沖縄の構図が出来上がり、ウチナーンチュの本土の人には見せない本土への対抗意識が表面化したのではないか。選挙戦の真っ最中、相手地盤の建設会社を回ったときそう感じた。
2018/09/03
小泉元総理の脱原発論の単純さ
 世論調査を行うと、脱原発を支持する国民は多い。しかし、脱原発を争点とした選挙で脱原発派が当選することは少ない。有権者は、観念的なエネルギー政策よりも、現実に即した具体的な政策を求めているのである。小泉純一郎元首相は、脱原発を旗印にした野党再編のキーマンになろうとしているが、旧来の左翼陣営のような観念的な脱原発にとどまっている限りは、それが国民の多くを動かすような動きにはならないだろう。
2018/07/23
日米原子力協定の自動延長は何を意味するのか?
 7月に日米原子力協定が自動延長された。これは、今後いつでも一方の国の勧告で協定を終了させることができる「サドンデス」期間に入ったことを意味する。協定が失効すれぱ、日本側では大きな混乱となる。一方、米国側が失うものはほとんどない。米国としては、エネルギー政策のみならず、対日外交上の大きなカードを得たことになる。
2018/06/18
新潟県知事選挙に見る選挙と原子力
 6月10日に行われた新潟県知事選で、与党系候補の花角英世氏が当選した。花角新知事は原発の是非について、米山隆一前知事の路線を継承するという。これまで、細川護熙元首相が出馬した東京都知事選などで、原発が争点となった。しかし、脱原発派が劇的な勝利を収めて政策の変更が行われたケースは少ない。国民は、観念的な政策よりも、現実に即した政策を求めているのである。
2018/05/14
第5次エネルギー基本計画に期待する
 第5次エネルギー基本計画の骨子案が総合資源エネルギー調査会で公表された。骨子案では、再生可能エネルギーについて、「ほかのエネルギー源の革新を誘発」するものだとする。一方、原子力については、「重要なベースロード電源」ではあるが、その依存度は可能な限り低減させるとしている。このような目標に対し私は「原子力か脱原発か」という2元論でなく、技術革新の可能性と不確実性を前提として、複線的なシナリオを用意しようとしている点で評価したい。
2018/04/02
森友学園問題とエネルギー政策
 森友学園問題が再燃している。当初安倍総理夫妻は、「保守ビジネス」の被害者ではないかと思っていた。しかし、経産省から出向している首相夫人付の関与や、財務省の決裁文書改ざんなどの問題が明らかになり、安倍政権の権力構造そのものの問題があぶり出されるようになった。第二次安倍政権は、経済産業省人脈がその屋台骨を支えている。しかし、森友問題をきっかけに、その運営に疑問が沸き起こり、安倍政権の行方も不透明なものになってきている。
2018/02/26
厳寒の電力不足で考えたこと
 東京電力が1月24日に節電を呼びかけた。22日から降り始めた大雪の影響によるもので、最近は夕方の暖房需要が綱渡りになっているようだ。太陽光発電の比率が高まったことによる構造的なも問題もあるという。FITの下で今後とも再生可能エネルギーの導入は増えていくだろう。規制の適切化、燃料調達環境の整備など、政策のきめ細かいミックスを図っていくことが急務だ。
2018/01/22
「エネルギー基本計画の見直しに必要な論点」 (福島伸享、1月22日)
 今年は、昨年から総合資源エネルギー調査会で始まったエネルギー基本計画見直しの議論が本格化する年だ。その中で原子力の位置づけは、脱原発を目指す政治勢力にとって最大の論点になる。例えば、脱原発派にとって原子力は、「原子力ムラの既得権益の確保」とみるだろう。一方、エネルギー政策を立案する立場からすれば、3E(安定供給、経済性、環境)の政策目標を達成するための帳尻合わせに一番便利なのが、原子力である。政府がエネルギー政策の帳尻を合わせに、今後も原子力に一定の役割を位置づけるのであれば、すべては絵に描いた餅になり、日本のエネルギー政策が抱える問題は解決しないだろう。


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