福島 伸享
前衆議院議員 1970年生まれ。東京大学農学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)入省。資源エネルギー庁において、電力・ガスの自由化や原子力立地、科学技術庁に出向して原子力災害対策特別措置法の立案などに従事。東京財団研究員、学習院女子大学大学院非常勤講師、筑波大学客員教授などを歴任。
小泉元総理の脱原発論の単純さ (2018/09/03)

 8月20日、小泉純一郎元首相が小池百合子東京都知事の支援団体で講演し、7月に決定された第5次エネルギー基本計画について、計画実現のためには原発30基程度の稼働が必要とされていることに触れ、「できもしないうそを発表したとあきれている」と述べたと報道されている。私がかつて小泉内閣の内閣官房にいた時、「総理レクチャー資料は1枚で」と指示され、実際に説明に行っても資料をろくに見ずに、力のない小さな声で「ウン、ウン。やって、やって」と言うだけであったから、今回の基本計画の詳細を読んではいないだろうが、あまりにもテキトーなコメントと言わざるを得ない。

 今般のエネルギー基本計画に関する私なりの理解は、5月14日付けの本コラム(http://www.energy-forum.co.jp/eccube/html/user_data/clm_fukushima.php?num=457)で書かせていただいているが、一番のポイントは「『原子力か脱原発か』という2元論に陥るのではなく、技術革新の可能性と不確実性を前提としながら、複線的なシナリオを用意しようとする」ことであり、そうした意味では「計画実現のために原発〇〇基を稼働する」というこれまでの基本計画の路線を無力化したものともいえる。小泉氏は、おそらくそうした深い読み込みはできず、あるいは教条的な脱原発派しかブレーンにいないのであろう。

 世論調査を行うと脱原発を支持する国民は多いが、小泉元総理も存在感を示した6月の新潟県知事選をはじめとして、脱原発を争点とした選挙で脱原発派が当選することは少ない。それは、有権者は意外と冷静であって、観念的なエネルギー政策よりも、現実に即した具体的な政策を求めているからである。今般のエネルギー基本計画は、そうした具体的なエネルギー政策の転換の端緒となりうるものである。かつて小泉氏は講演で、「政治で一番大事なことは方針で示すことだ」とした上で、「原発ゼロの方針を政治が出せば、必ず知恵のある人がいい案を作ってくれる」と叫んだ。「知恵のある人」を誰と想定しているのかはわからないが、今般のエネルギー基本計画はそれなりに知恵を出して作られたものだ。

 小泉氏は、かつての仇敵の小沢一郎自由党共同代表の政治塾で脱原発の講演をしたりして、脱原発を旗印にした野党再編のキーマンにもなろうとしているが、旧来の左派陣営のような観念的な脱原発にとどまっている限りは、それが国民の多くを動かすような動きにはならないであろう。いや、そもそも、脱原発の旗印が国民の多くを政治の変革へと動かすものになるとは思われない。小泉氏は、「(首相)在任中は原発は安全でコストが安く、クリーンだという経済産業省の話を信じてしまった」と悔やみつつ、「原発推進の大義名分は全部うそ」と各地で発言しているが、小泉氏得意の政治的直観は「脱原発すれば安全でコストが安く、クリーンだという脱原発派の話を信じてしまった」となりかねない。今必要なのは、脱原発で政局を操る思惑や直感的な政治宣言よりも、国際情勢の変化や技術の革新、経済状況の変動などに応じた冷静で緻密な政策論議なのである。

記事一覧
2018/11/12
東海第2原発の運転延長認可の先にあるもの
 11月7日に、日本原電の東海第2原発の運転延長の認可が原子力規制委員会から下りた。福島第1原発と同じBWRでの延長認可は、初めてのことである。これによって、法律に基づく安全性審査をすべてクリアし、あとのハードルは東海村と隣接する6市村の安全協定に基づく同意となったと報道されている。
2018/10/09
沖縄県知事選挙とは何だったのか?
 9月に行われた沖縄県知事選では、野党系の玉木デニー氏が与党系の佐喜真淳氏を大差で破り当選した。世論調査では、基地問題が一番の有権者の関心ごとだったと言われている。しかし、実際のところは、与党が組織戦に力を入れれば入れるほど、本土対沖縄の構図が出来上がり、ウチナーンチュの本土の人には見せない本土への対抗意識が表面化したのではないか。選挙戦の真っ最中、相手地盤の建設会社を回ったときそう感じた。
2018/09/03
小泉元総理の脱原発論の単純さ
 世論調査を行うと、脱原発を支持する国民は多い。しかし、脱原発を争点とした選挙で脱原発派が当選することは少ない。有権者は、観念的なエネルギー政策よりも、現実に即した具体的な政策を求めているのである。小泉純一郎元首相は、脱原発を旗印にした野党再編のキーマンになろうとしているが、旧来の左翼陣営のような観念的な脱原発にとどまっている限りは、それが国民の多くを動かすような動きにはならないだろう。
2018/07/23
日米原子力協定の自動延長は何を意味するのか?
 7月に日米原子力協定が自動延長された。これは、今後いつでも一方の国の勧告で協定を終了させることができる「サドンデス」期間に入ったことを意味する。協定が失効すれぱ、日本側では大きな混乱となる。一方、米国側が失うものはほとんどない。米国としては、エネルギー政策のみならず、対日外交上の大きなカードを得たことになる。
2018/06/18
新潟県知事選挙に見る選挙と原子力
 6月10日に行われた新潟県知事選で、与党系候補の花角英世氏が当選した。花角新知事は原発の是非について、米山隆一前知事の路線を継承するという。これまで、細川護熙元首相が出馬した東京都知事選などで、原発が争点となった。しかし、脱原発派が劇的な勝利を収めて政策の変更が行われたケースは少ない。国民は、観念的な政策よりも、現実に即した政策を求めているのである。
2018/05/14
第5次エネルギー基本計画に期待する
 第5次エネルギー基本計画の骨子案が総合資源エネルギー調査会で公表された。骨子案では、再生可能エネルギーについて、「ほかのエネルギー源の革新を誘発」するものだとする。一方、原子力については、「重要なベースロード電源」ではあるが、その依存度は可能な限り低減させるとしている。このような目標に対し私は「原子力か脱原発か」という2元論でなく、技術革新の可能性と不確実性を前提として、複線的なシナリオを用意しようとしている点で評価したい。
2018/04/02
森友学園問題とエネルギー政策
 森友学園問題が再燃している。当初安倍総理夫妻は、「保守ビジネス」の被害者ではないかと思っていた。しかし、経産省から出向している首相夫人付の関与や、財務省の決裁文書改ざんなどの問題が明らかになり、安倍政権の権力構造そのものの問題があぶり出されるようになった。第二次安倍政権は、経済産業省人脈がその屋台骨を支えている。しかし、森友問題をきっかけに、その運営に疑問が沸き起こり、安倍政権の行方も不透明なものになってきている。
2018/02/26
厳寒の電力不足で考えたこと
 東京電力が1月24日に節電を呼びかけた。22日から降り始めた大雪の影響によるもので、最近は夕方の暖房需要が綱渡りになっているようだ。太陽光発電の比率が高まったことによる構造的なも問題もあるという。FITの下で今後とも再生可能エネルギーの導入は増えていくだろう。規制の適切化、燃料調達環境の整備など、政策のきめ細かいミックスを図っていくことが急務だ。
2018/01/22
「エネルギー基本計画の見直しに必要な論点」 (福島伸享、1月22日)
 今年は、昨年から総合資源エネルギー調査会で始まったエネルギー基本計画見直しの議論が本格化する年だ。その中で原子力の位置づけは、脱原発を目指す政治勢力にとって最大の論点になる。例えば、脱原発派にとって原子力は、「原子力ムラの既得権益の確保」とみるだろう。一方、エネルギー政策を立案する立場からすれば、3E(安定供給、経済性、環境)の政策目標を達成するための帳尻合わせに一番便利なのが、原子力である。政府がエネルギー政策の帳尻を合わせに、今後も原子力に一定の役割を位置づけるのであれば、すべては絵に描いた餅になり、日本のエネルギー政策が抱える問題は解決しないだろう。