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福島 伸享 |
前衆議院議員 1970年生まれ。東京大学農学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)入省。資源エネルギー庁において、電力・ガスの自由化や原子力立地、科学技術庁に出向して原子力災害対策特別措置法の立案などに従事。東京財団研究員、学習院女子大学大学院非常勤講師、筑波大学客員教授などを歴任。 |
経団連・日立製作所の中西会長が問いかけるもの (2019/01/28) | |
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年が明けてマスコミ各社との年頭インタビューでは、「お客様が利益を上げられてない商売でベンダーが利益を上げるのは難しい。どうするか真剣に一般公開の討論をするべきだと思う。全員が反対するものをエネルギー業者やベンダーが無理やりつくるということは、この民主国家ではない」(テレビ朝日)とか、 「国内のエネルギーの8割は依然、化石燃料で危機的状況にある。再生エネルギーも、日本には適地が少なく極めて不安定。太陽光も風力も季節性があり、次世代送電網のスマートグリッドも、新しい投資が行われていない。一方で、稼働しない原発に巨額の安全対策費が注ぎ込まれているが、8年も製品を造っていない工場に存続のための追加対策を取るという、経営者として考えられないことを電力会社はやっている。適切な安全対策を最初から折り込んだ原発は、発電コストも高くないが、国民が反対するものをつくるには、原発建設の受け入れを前提に、公開討論すべきだ」(産経新聞)など。 1月15日の会見では、「原発の再稼働が進まないことも直近の課題であり、積極的に推進するべきである。安全性の議論が尽くされていても、地元の理解が得られない状況に立ち至っている。その説得は電力会社だけでできるものではなく、広く議論することが必要になっている。それにもかかわらず、原子力について真正面からの議論が足りていない。仮に原子力をベースロード電源として使わない場合、長期的に見て、何が人類のエネルギー源になるのか、冷静に考えてみるべきだ」として、「エネルギー問題については、資源エネルギー庁、経済産業省だけでなく、外務省、環境省、財務省なども関係する横断的な課題だという問題意識を持っている。政、官、産、学で真剣に議論していく必要がある」とも述べている。まるで、私のこのコラムを読んでくれているかのようだ。 そして、ついに1月17日には日立製作所は英国での原発新設計画の凍結を発表した。 中西会長は、経営者として極めてまともなことを言っている。民間企業が自らリスクを取り切れず、市場からも評価されない、利益が上がらない事業を行えるわけがない。これまで日本の原子力産業は、「国策」であることに甘えて国の政策に付き合いすぎてきたのではないか。問題の根幹は、この国にまともな総合エネルギー政策がないことである。政府は、原子力を推進すれば安定供給・環境・経済性の三つを同時に達成できるという呪文を唱え続けてきたが、残念ながらそれは今や国民の支持を受けるものではなく、また支持を受けるための真剣な対話を怠ってきた。そして中西会長は、肝心の原子力産業をはじめとするエネルギー産業は民間の力のみでは事業として成り立ちえないことを、正直に、そしてクリアに発言している。いつまでも本質的な議論を先送りできる状況にはないのだ。 これまで書いてきたように、昨年閣議決定された第5次エネルギー基本計画の中には、総合エネルギー政策の立案に向けた種は蒔かれている。問題は、その種が、総合的で具体的な政策の体系として花開くかである。それには、技術や金融、外交などの総合的な視点が必要であるが、テストは得意でも大した創造力のない現状のタコツボ型の官僚組織が惰性で行っても、なしえないものであろう。そして、その官僚の作る「国策」を頼りにするサラリーマン的大企業経営者とのもたれ合いの構造は、平成の時代で終わらせなければならない。この意志を働かせる力は、本来は政治なのであるが、一体その役割を今の政治は果たせるのだろうか。 |
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