飯倉 穣 エコノミスト
1947年生まれ。経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。著書に「石油危機から30年」「あえて言わせてもらえば」「電力」など。
平成経済30年を考える~下村治博士亡き後の経済政策の混迷 (2019/04/01)

 平成経済は、バブル形成・崩壊・その後の経済均衡失調(財政赤字)と経済沈滞(年平均経済成長率1990~2018年名目0.7%、実質1%)に象徴される。80年代前半Japan As NO.1と言われた良好な経済パフォーマンスから転落した。その原因は、政府の経済対応の失敗にある。当時の下村治博士の問題提起と経済専門家の反応を振り返る。今日のアベノミクスの行方の参考になる。
 下村は、敗戦後日本経済を的確に把握し、高度成長(1959年)、中成長移行(70年)、オイルショック時のゼロ成長(74年)、その後の低成長を予測し、経済運営の在り方・政策をリードした。その適切さから「教祖」と言われた。
 最後の指摘が、平成直前の「前川レポート」(86年4月)批判である。前提となる現状認識と政策に疑問を呈した。同報告は、米国の執拗な内需拡大要求に対する中曽根康弘首相のレーガン大統領への説明資料(Excuse)であった。対外不均衡是正(貿易黒字縮小)を図るため、拡大均衡で輸入増を狙った。政策は、機動的な金融政策運営(緩和)・財政政策(再建放棄)を謳い、内需拡大(成長)策として規制緩和・民活・三セク活用を打ち出した。
 下村は、米国の異常な輸入超過は、米国の経済運営(レーガノミクス)に原因があり、米国での対応(内外均衡努力等)以外に方策がないと異見した。また内需拡大策がもたらす不均衡拡大を憂慮した。金融バブル到来とその崩壊となれば経済調整困難と述べ、日米の縮小均衡を説いた(86年以降)。天命近づく中、講演会や著述で、無理な内需拡大が、日本経済の破滅を招くと警告した(下村治博士89年6月死去)。
 経済学者・エコノミストの異論・反論があった。その論点は、貿易不均衡(米国赤字、日本黒字)の原因、日米の対応方法、そして内需拡大・輸入増の可能性であった。多くは、不均衡の責任が米国だけでなく日本にもあるとした。また財政金融出動等で内需主導成長・輸入増可能と考えた。例えば、宮崎勇、加藤寛、香西泰、前川春雄、篠原三代平、鈴木淑夫等である(文献省略)。
 金融緩和・財政増の結果、経済は膨張し、実質成長率88年6.8%、89年(平成元年)4.9%に達した。この経済膨張を見て、前川報告関係者は、内需拡大成長実現と思い込んだ。宮崎勇は、「いま、たしかに下村さんのときと違って日本の経済構造は国内型から輸出振興型ではなくて、逆に貿易依存型から国内需要型への経済構造に変わりつつあり、その点で下村さんのいわれたときと全く違った方向への構造転換ではあるが、構造転換という意味では共通している」(90年代日本経済の課題は何か:90年2月)と書いた。小峰隆夫は「円高後の日本経済はまさに前川レポートの提言した姿を実現している。成長は、完全に内需主導型となり、輸入が急増して経常収支の黒字が減少した」(日本経済の構造転換89年7月)と記した。
 直後の90年にバブル経済は破綻した。残った専門家は、バブル崩壊を観取できなかった。ある官庁エコノミストは、当時金融機関の不良債権問題を意識しなかったと述べた(14年日本記者クラブ会見)。金融が悪さをするバブル経済の本質(過剰設備・過剰債務・不良債権化・回収困難)を洞察出来なかった。経済専門家とは、所詮そんなものであろう。
 そして反省なく、マクロ均衡を軽視して、米国要求を正当化する次の経済政策(構造改革)を打ち上げていく(平岩レポート93年:経済改革3%成長可能、経済規制原則自由)。その後、新自由主義・市場主義、規制緩和盲従、消費者重視、日本型システム批判の経済学者が登場する。またIT成長可能論、ベンチャー期待や需要創出イノベーションが提唱された。リーマンショックが、構造改革の虚構を露見した。それに懲りず、リフレ派が登場し、アベノミクス(大胆な金融政策・機動的な財政政策・民間投資喚起成長戦略論)を継続している。 多くの著述は、平成バブルと崩壊を的確に予測した人はいないと記述する。例えば白川方明「中央銀行」(18年10月)も、バブル前の下村・政府御用学者の論争に触れていない。
 内外経済均衡の視点で平成バブル形成・崩壊を見通したのは下村だけであった。下村が、あと3年生きていれば、平成経済の姿は、少し違ったかもしれない。
記事一覧
2019/10/07
原子力を経済・エコロジーで考える
 暑中、福島第二原子力発電廃炉の報道があった。原子力への逆風と迷走が継続している。国連気候変動サミットの状況を仄聞するにつけ、日本の地球環境問題対応の先行きに懸念が生じる。経済、地球エコロジー、エネルギーの視点から見れば、エネルギー選択は厳しい制約に直面している。原子力の在り方を再検討し、その活用を図ることが必須ではなかろうか。
2019/09/02
年次経済財政報告を考える~経済白書時代を思い出しながら
令和元年度年次経済財政報告(経財白書)が公表された。日本経済の現状を回復継続と捉え、米中経済摩擦等の留意点を紹介する。そして多様な人材の活躍を期待し、企業の輸出志向とグローバル化が共同研究・人材交流で生産性向上に寄与すると述べる。経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)の後付けの感を否めない。過去の経済白書を思えば、現実直視の問題分析と且つ客観的な中長期の課題の提起を期待したい。
2019/07/22
「家父長的金融行政を考える」
近時のマクロ政策に基づく行政施策の功罪が問われている。老後資金2千万円不足報道は、国会終盤、マスコミ・野党の攻撃材料となり、担当大臣が報告書受取拒否という事態になった。抑々金融庁報告書は必要だったのであろうか。そこにパターナリズム(家父長的干渉)を感じる。老後は、現在の年金を前提とした各個人の設計に任せるべきではなかろうか
2019/06/17
「景気後退期の経済対策と長期政権の罠」
 経済指標上、景気後退が顕著になっている。この数年稍々堅調な輸出と輸出関連投資に支えられた設備積上げと金融緩和による投資嵩上げで形成された需給ギャップが、今後、顕在化する。金融サイドの吟味は必要だが、通常の景気変動であれば、特段の経済対策は不要である。財政の自動安定化装置内で対応し、且つ企業行動で調整を促すことが肝要である。政治安定のために政策の不安定を繰り返すことは如何であろうか。
2019/05/13
「令和経済展望の手掛かり~OECD対日経済審査報告書(2019年4月)から」
 令和経済が始まった。平成最後の世論調査で、日本人の多くが、親世代より次世代が経済的に低下すると答えた。OECD対日経済審査報告書は、政府の成長戦略絡みの各施策を評価する一方、日本の財政状況に危惧を示している。今後の経済の鍵は、平成の政府失敗の繰返しを反省し、ポピュリスト的政策の提起を警戒し、経済変動と均衡の基本に沿った政策を展開することであろう。いつの世も経済発展は、個人・企業の創造的な努力次第である。
2019/04/01
平成経済30年を考える~下村治博士亡き後の経済政策の混迷
 多くの経済専門家は、平成初めのバブル形成と崩壊を予期できなかった。そしてバブルを招来した前川レポートに係る論争を紹介しない。当時下村治博士は、マクロバランスの視点から同報告を批判した。そして金融緩和・財政拡大・内需拡大策が、日本経済の破綻を招来すると警告した。下村があと数年生きていたら平成経済の姿も変わっていたであろう。バブルを予測できた人のみバブル対応が出来たのではなかろうか。平成の終わりに当時の論争を紹介してみる。アベノミクスの行く末の参考になる。
2019/02/25
平成経済30年を考える~グローバル化と海外情報基盤忽略の報い
 平成の始めに東側体制の崩壊があり、グローバルな市場経済が形成された。ビジネスチャンスが拡大し、日本企業も海外のインフラ関連事業をフォローしている。政府の後押しもあったが、今日まで十分な成功を収めていない。その理由の一つとして政府の内向的な平成年間の構造改革と海外情報収集能力の不足がある。今一度情報基盤構築を目指したい。
2019/01/21
平成経済30年を考える~成長戦略:ベンチャー固執と見果てぬ夢
 平成は、「改革なくして成長なし」に代表される空論の下で経済活動に過度に干渉する政府の無理が続いた時代であった。成長戦略の核であるベンチャー振興は、産業革新投資機構の報酬問題で揺れている。日本でシリコンバレーの実現は困難という見方もある。科学研究力強化のため増員されたポスドクの活用を念頭に置きながら、同機構も含めてベンチャー施策を再検討すべきであろう。
2018/12/10
平成経済30年を考える~「象徴 構造改革~盲従と儚さ」
 平成が幕を下ろす。元年バブル頂点に達し翌年崩壊が始まった。最終年の心配は、明日の成長より、世界的な金融緩和の副作用とアベノミクスの帰結である財政変事と中々バブル崩壊であろう。
2018/11/05
福島第一原発事故処理と太陽光出力調整から考える
 高い経済成長は、より安価・大量・安定供給可能なエネルギーの入手がなければ困難である。現状見出していない。現経済水準維持にも現使用量と同程度のエネ投入が必要である。そのエネ確保も困難に直面している。地球エコロジー尊重の立場から見るとエネルギー選択肢は限定的である。前代未聞の今夏の自然災害を考え、経済水準維持に執着するなら、化石エネを見切り非化石エネを血肉化せざるを得ない。
2018/10/01
産業競争力を考える前に~ホンダジェット開発に見る企業内創造の姿
 昨今の未来投資戦略は、政府が無理やりお題目を掲げ、「何かする」に囚われているのではないか。これはある意味政治家のプロパガンダであり、官庁・役人が御用聞きで仕事を創るあるいは与えるようにみえる。ならば企業はどうすればよいのか。新しいものを作り出す力や閃き、当たりを重視する企業内創造を活発に行うことだろう。ホンダジェットの開発は、まさにその流れを踏襲している。
2018/08/27
規制緩和と地方経済を考える
 岡山県のバス会社両備ホールディングスが運営する黒字収支の路線に、同じく県内のバス会社八晃運輸が参入するという。しかも料金は両備の既存運賃より4割程度低い。このような結果は、何をもたらすか。地域経済発展に必要な企業力と地域力の低下ではないか。規制の見直しは不断に必要だが、生産性向上を期待できない分野ならば、雇用の安定を考えた対応が重要である。
2018/07/17
「経済財政諮問会議」と「経済財政運営と改革の基本方針」を考える
 政府は、「経済財政運営と改革の基本方針2018」と「未来投資戦略」を閣議決定した。このような国の方策を決めるのが、2001年に橋本内閣の行政改革の一環として設置された経済財政諮問会議だ。同会議は、首相が会議を総理することで議事を主導して、政策を最終調整できるメリットがある。その一方で、発足当初から、政治的、未成熟、検討不十分といった厳しい声も多い。果たしてこのような意見交換的な政策決定は適切なのだろうか。
2018/06/11
経営を取り巻く今どきの監視・監査を考える
 会社の監視・監査に関する制度変更が、1990年代以降から継続して行われている。しかし、これまでの制度変更で疑問を感じることも多い。2003年から義務化された四半期決算は、企業や働く人にどの程度意味があろうか。14年には、コーポレート・ガバナンスの観点から、社外取締役・監査役が強化されたが、その結果、社外役員に学者や官僚経験者の就任が目立つようになった。会計監査人や金融庁の指導で求められる提出資料の確認書も、数十におよぶ言質を並べ立てて作成する必要があるとは思えない。
2018/05/07
米中経済摩擦を考える
 米国のトランプ政権は、貿易赤字の縮小と、特定産業の雇用維持のため、輸入抑制を行おうとしている。特に国別貿易赤字の構成比が最も高い中国に対しては、知財保護の観点から、中国が長期的に育成しようとしている製品1300品目にも課税する方針だ。これに対し中国は、報復関税の発動も辞さないという。これは、1980年代以降の日米経済摩擦とは異なった状況である。当時の日本は、米国の要求に沿って内需拡大や貿易黒字の削減努力を行い、バブル経済を引き起こした。しかし、その後は、日本の強みである経済構造が変質し、経済力が低下した。
2018/03/26
働き方改革座礁と職の安定を考える
 昨今失業率は低下傾向にあるが、雇用環境・条件は停滞している。1990年代以降在来型企業が直面する停滞の中で、伸張するサービス産業の宿命(低生産性、低賃金、職場環境の未改善)という現実がある。いい雇用はどこに行ったのであろうか。現在の働き方改革を見るにつけ、雇用を支える国内産業の脆弱化を考えざるを得ない。
2018/02/19
バブル崩壊の姿を考える
 今年の初め、エコノミストの間で、日本経済はいつバブルとなり、いつ崩壊するのかという論が行き交った。そもそもそバブルの予測は可能であろうか。経済現象として捉え、資産価格上昇、経済過熱、信用膨張を挙げる人もいるが、いかにバブル形成を予測するか判然としない。幾つかの指標を基にしてバブル経済の先行きを考えてみた。
2018/01/15
「2018年度予算を考える」(飯倉穣、1月15日)
 2018年度の予算案は、一般会計で97兆7000億円となり、6年連続で増加した。歳入・歳出の数値をみると、消費増税負担を求めた割に公債への依存度が依然として高いままだ。また、若干の増税は行われたものの、前年度末の補正予算も含めると、目立つ歳出の抑制は見られない。日銀や赤字国債頼りの予算編成を継続しているようだ。景気膨張の下、財政事情を考慮せず、一か八かでさらに経済引き上げを狙った政府の意図が見えてくる。
2017/12/11
「税制改正(賃上げ減税)を考える」(飯倉穣、12月11日) 
 税制改正の一環として、賃上げ減税が導入されようとしている。しかし、過去を振り返ると、時代に即した賃上げの教訓があった。高度経済成長期の時代では、製造業が生産性を高めて、ほかの産業の賃上げをけん引した。オイルショック後は、物価高騰に伴い生産性の上昇に伴わない賃上げ交渉が労使間で行われたが、政府は、ベア水準の抑制に成功した。一方、バブル期とその崩壊後では、実力以上の賃上げを行う事業者が増えた。その結果、2000年代には、非正規雇用の増加が顕著になった。政府は、賃上げを迫るのではなく、マクロバランスを考慮すべきだ。
2017/11/13
「人づくり革命を考える」(飯倉穣、11月13日)
 現在の日本経済は、米国と比べて先行きに不安感がある。これは、日米の大学格差に起因するのではないか。明治以降の日本の教育制度は、読み書きそろばんができる良き労働者の排出と、良き翻訳者の育成に貢献し、うまく機能した。一方、米国では、1980年代に、次の世代が前の世代より貧しくなるという見方が支配した。その時、大学が米国を再建すると主張した。大学は、最も国際競争力のある産業だからだ。翻って日本はどうか。構造改革の一環としての独立行政法人化は、大学人のモチベーション低下を生んだ。大学は実学に遠く、役立たないという評価もある。
2017/10/10
国難突破解散と財政問題を考える
 安倍首相が衆議院の解散にあたり述べた「国難」のひとつに、財政問題がある。財政金融政策や輸出関連設備の投資などにより経済は好調だが、財政赤字は縮減せず、国債残高が累積しているからだ。現実の成長率ならば、財政再建には、30兆円超の増税か歳出削減が必要だ。各党は、選挙公約としてそれぞれの財政再建策を掲げる。しかし、予算改革や税金の有効利用など、国民に耳当たりのよいものばかりが強調され、経済の基本である財政均衡は軽視されている。
2017/09/19
概算要求基準を考える
6月に公表された政府方針では、GDP600兆円と、2020年度の財政健全化目標が掲げられている。歳出面では、ワイズスペンディング(賢い支出)やインセンティブ強化を、歳入面では、民間シェア向上による課税ベース拡大、税制の見直しを図るようだが、いずれも効果は疑わしい。これまでさまざまな内閣が財政再建に取り組んできたが、オイルショック以降の内閣で唯一成果を出したのは鈴木善幸内閣のときだろう。なぜなら、鈴木内閣には財政危機の認識があり、シーリングを徹底して行ったからだ。
2017/08/21
金融検査マニュアル見直しを考える
6月9日の日本経済新聞で、銀行経営を監視する「金融検査マニュアル」を廃止するという観測記事が掲載された。金融マニュアルは1999年に制定され、金融行政の回復や不良債権問題解決などの役割を担った。その一方で、多くの雇用を抱え、頑張っている企業を見捨て、過酷な状況を作り出した。とはいえ、金融マニュアルを廃止しても、過去のバブル経済の失敗を経験した経営者・金融機関なら、大きく姿勢を変えることはないだろう。そうすると同じ過ちが繰り返されることになる。
2017/07/18
コーポレート・ガバナンス(企業統治)を考える
 最近、コーポレートガバナンス(企業統治)議論の一つとして、相談役・顧問制度の透明化を求める報道が増えている。本来企業統治とは、会社の経営を監視するのが本来の目的のはずだ。しかし、今では相談役・顧問制度の透明化を求めることが、民間経営に対する政府の介入糸口になっているように見える。本来企業の基本は自立自営にあるはずだ。企業組織・行動は、会社法、企業会計原則、税法などの周知・遵守で十分である。
2017/06/19
教育無償化を考える
 教員無償化の話題が増えてきている。教育に対する介入は、どれほど必要なのだろうか。教育の機会については、私学を中心とした市場に任せるという議論がある。しかし、教育費に対する対価は、ビジネスと違い費用回収が難しい。また、子どもは、どのような境遇であっても、教育を受ける権利がある。何かしらの政府介入は必要だ。政府の試算によると、幼児教育から高等教育まで含めるとその費用は5兆円強かかるという。財源は、税、保険、国債、休眠預金を活用するらしい。政府はまず、どこに財源を投資するか優先順位をつけるべきである。
2017/05/22
人手不足を考える
 今年に入り「人手不足」という言葉がマスコミでよく取り上げられるようになった。歴史をたどると日本は2つの時期で人手不足を経験している。1つ目は高度成長が一段落した1970年代。生産性の高い製造業が、労働力を吸収し、低生産性部門からの人口移動を促した。2つ目は、80年代前半のバブル形成期。財政拡大・金融緩和政策により、設備投資が加速し、85年以降経済が膨張した。一方、13年1月から続いているアベノミクスによる景気拡大策では、雇用増加の8割が非製造業で、非正規の職を得ている。生産性の高い分野での雇用拡大がないのが特徴だ。
2017/04/17
海外企業買収(東芝問題)を考える
 東芝によるWH買収の判断で、多数問題が指摘されている。核心はWHの債務保証だろう。保証を求められれば、当然何かおかしいと本来は感じるはずだ。この甘い判断の原因には、経営者、働く人の意識の問題があるのではないか。民間は、商品サービスの提供で代金という形で自分の稼ぎを得る。故に苦労も多い。しかし、企業が成熟していくとその原点を忘れがちになる。自分の金を自分に使えば、節約して効用の最大を狙う。しかし、他人の金を他人のために使えばどうか。節約不明、効用不明となる。つまり「福祉の欺瞞(ぎまん)」が経営者や働く人に忍び込むのである。
2017/03/13
働き方改革の淵源を考える
 安倍内閣が2016年に示した「ニッポン一億総活躍プラン」では、「高齢者雇用の促進」、「非正規雇用労働者の待遇改善」、「最低賃金引上げ」などを掲げている。しかし、この改革は、労働者に一定の光明を与えるとしても、雇用の根本である企業の発展にどの程度貢献するか不明である。必要なのは、働きを通じて物真似を超え新しいものを創造する人材の醸成ではないか。
2017/02/06
トランプノミクスの雇用第一を考える
 安倍晋三首相が1月20日に行った施政方針演説とトランプ政権の方針を比較してみた。「偉大な国」と「輝く日本」、雇用確保、成長志向。目標はおおむね一緒である。しかし、貿易は二国間FTAか多国間かで若干ニュアンスが違う。最近の思潮である「新自由主義」は市場重視・競争で多くの企業・雇用を不安定にして、それをバネに企業・労働者の活力を高め経済活性化を狙って来た。トランプ政権の雇用第一は、米国の新自由主義の流れを変えるであろうか。
2017/01/05
2017年度政府予算案を考える
 昨年12月、政府は17年度政府予算案を閣議決定した。歳出は97.5兆円で今年度当初予算比0.76%増である。報道によれば特会からの繰入でその他収入を積み上げている。かつ税収の前提が、来年度経済成長率が実質1.5%名目2.5%と高め設定である。これらを考えれば、歳入見積もりを額面通りに受け取れない。財政の基本的考え方は、財政支出のうち経常支出を税収で賄うことである。これは経済の原理、財政の基本原理である。
2016/11/28
トランプ新大統領の経済政策の行方を考える
 現在の米国経済は、リーマンショックからの回復過程がほぼ終了した段階に差しかかっている。今後の景気は、ピーク越えか景気下降局面のどちらかになるだろう。トランプ氏の政策は、雇用確保で移民抑制、輸入抑制、減税、インフラ投資拡大、金融緩和に動くと推察される。しかし、このような財政金融頼りの経済膨張政策は適当なのだろうか。かつてのレガーノミクス(大減税・規制緩和・金融引き締め)やジョージ・W・ブッシュ経済政策(減税・イラク戦争・金融緩和)の再来にみえてしまう。
2016/10/24
お呪(まじな)い的金融政策を考える
 過去3年間の金融政策をみると、為替安、金利低下、株式などの資産価格の上昇をもたらしたが、経済全体で捉えると、生産面は微増から停滞、民間企業設備投資は微増から横ばい、住宅投資はやや増加、輸出は微増だった。この間の実質GDPの伸びは平均0.6%だったが、これは補正予算を含めた財政支出の効果が大きい。つまり、金融政策の経済全体への波及効果はわずかしかなかったことになる。
2016/09/20
消費拡大・景気浮揚・経済成長を考える
 消費拡大、景気浮揚、成長実現とはどのようなことを言うのか。減税などにより短期的に消費拡大で景気浮揚は可能である。しかし長期的には継続が困難である。これは消費が所得に依存するためである。つまり消費は、所得の結果といえる。貯蓄の取り崩しや借金で消費を行うことはできるが、一時的で限度がある。自分の所得以上の消費は長期的に継続できない。故に消費で成長実現は困難である。
2016/08/08
アベノミクスふかし大規模経済対策を考える
 参院選後安倍晋三首相は、28兆超の経済対策を打ち出した。今回の経済対策は、大規模な財政出動で景気の下支えを本格化する狙いがある。ひとつは、当面の需要不足を埋め、回復すれば、財政支援なしで成長軌道にのせる所得ターゲット政策であり、もうひとつは、技術開発ベースの民間投資である。それゆえ、一定期間の経済引き上げ効果(膨張)が期待でき、成長が続けば「呼び水」効果となるだろう。一方、低成長にとどまるなら、「乗数」効果に帰結せざるを得ない。
2016/07/04
消費増税再々延期発言を考える――政策転換は引き際が大切――
 安倍晋三首相が示した新しい判断「消費増税の2年半延期」について大方の国民は、「財政不安は残るが、増税延期に一安心といったところだろう。ただ問題もいくつかある。1つめは、政治的な空言だ。財政運営は政治家の影響があるため、通常は政策の変更は行わないものである。2つめは、安倍首相や政府の経済の捉え方だ。現状はバブル崩壊の前兆か通常の景気後退局面のはずだ。成長が見込めない下でアベノミクスを最大限にふかすのは、バブルを再現になりかねない。
2016/05/30
日本の通貨体制を考える
米国を中心に為替相場は、市場が決める、市場任せにすべきだという主張がある。一方変動相場制では、通貨政策は国内問題である。国内通貨政策の結果、物価変動などで相場が変動することは受容される。他方、行き過ぎには国際的あるいは一国の関与がしばしば認められる。各局面で対応の考えが異なる。根底には過去の経験から通貨安競争は望ましくないという基本理念がある。
2016/04/18
サミット経済宣言の陥穽を思議する
 3月に行った日米首脳会談でオバマ米国大統領は、5月に開かれるG7伊勢志摩サミットを見越し、安倍首相の主導力に期待すると述べた。そんな中、日銀の3月短観が2年9カ月ぶりの景況感悪化を伝えた。日本経済の景気は漂流しているのである。政府は3月に過去最高額となる96.7兆円の予算を成立したが、その後も前倒し執行や「商品券配布」など財政出動を検討していると聞く。財政金融政策で経済水準を押し上げた分、すでに資産価格バブルや設備過剰が起こっている可能性がある。ただ、それでも金融機関の健全性が維持されれば、予想景気の範囲内に収まる。その場合政府は静観したほうが良いといわれている。各国経済は、その国の責任で運営することが基本である。
2016/03/14
日本経済の健全性を考える
 2月19日、野田佳彦前首相と安倍晋三現首相の国会質疑があり、経済認識と政策に係る見解を相互に披露した。その時の両者の認識は、共に成長力を高める工夫が必要ということだった。近頃の政治家は、経済成長を過度に重視し、経済変動(景気変動)や経済のパフォーマンス(経済の健全性)を軽視する傾向にあるのではないか。経済成長は技術革新をベースとした民間設備投資が前提にあるので、短期・中期的な施策で結果を期待してはいけない。
2016/02/08
財政規律を考える
 2016年度予算の国会審議が始まった。政府は、赤字国債を5年間自動発行延長出来る特例公債法案を今国会に提出するという。現在の財政状況下でこのような政策・法律の提案は妥当なのであろうか。消費税率引上で国民負担を求めることに加え高水準の国債依存継続という状況を斟酌すると、歳出拡大は不適切だ。長期にわたる公債依存度も、緊急対策、不況対策の位置づけを越えており、日本の財政運営に不健全性・違和感を覚える。先進国では見られない常軌を逸した財政運営が継続している。
2015/12/21
敗戦後70年を考える「経済成長~現実直視こそ肝要~」
 安倍晋三首相は、9月に行った演説で「2020年に名目GDP600兆円」を目指す目標を掲げた。果たして可能なのか。現在民間企業は約70兆円の設備投資を実施しているが、GDPの増加は見られない。独立投資というより維持補修・更新・合理化などの投資が中心で現状生産を維持するのに精一杯なのだろう。にもかかわらず政府は、10兆円の設備投資実施を経済団体に要請している。民間企業の自主的決定なら喜ばしいが、政府との取引で行うなら単なる投資の前倒しか過大投資でしかない。
2015/11/09
敗戦後70年を考える「当世風経済方針づくりと敗戦後経済計画懐古」
 戦後の日本では、「経済復興5カ年計画案」(1948年)など早くから長期の経済計画が政府で検討されていた。その後は、池田勇人内閣の「国民所得倍増計画」(60年)などを経て、小渕恵三内閣の「経済社会のあるべき姿と経済新生の政策方針」(99年)まで14回にわたり改正されている。指示的計画(Indicative Planning)と呼ばれるこれらの経済計画は、価格メカニズムの市場を尊重するところに特長を持ち、政治家の思いつきが検証される機会にもなった。一方、小泉純一郎内閣の「骨太の方針」(2001年)や鳩山由紀夫内閣の「新成長戦略」(09年)では、経済方針を前面に打ち出したものの、その作成過程における議論の根拠や裏づけが、示されなかった。「3本の矢」と呼ばれた安倍晋三内閣の経済政策も2年が過ぎて、その転換が迫られている。今こそ「経済計画策定過程の重みと意義」を再評価すべきではないか。
2015/09/25
敗戦後70年を考える「経済運営再考」
 戦後日本の国内経済を振り返ると、バブル期以降30年間、安易な金融政策や意味不明の構造改革が継続し、経済成長が低下・停滞している。特に3本の矢と称されるアベノミクスは、金融緩和や財政拡大に加え、インバウンドや途上国のインフラ整備など海外需要の取り組みに活路を見出そうとしているが、継続性があるのかどうか疑問だ。戦後日本の経済成長は、「自国土で自国民が創意工夫により経済を築いてきた」と池田内閣時代に所得倍増計画を設計した下村治博士は述べていた。今必要なのは成長期待ではなく、均衡のとれた健全な経済の姿ではないか。
2015/08/10
敗戦後70年 「沖縄を考える」 
 戦後の日本は、日本国憲法を基本に据える一方、外交では、日米安保条約と日米地位協定を受け入れた。言い換えれば、日本は条約に基づき米軍に基地を提供し、また米軍人に特別な法的地位を容認し、安全保障を託している。その状況の中、沖縄が基地問題で揺れている。沖縄の要求は明確だ。①米軍基地の整理・縮小、②基地負担の公平、③基地経済からの脱却・自立、④日米地位協定の改定などである。日本の安全保障、沖縄の歴史的経過とその負担から見て、日本国民・政府はどう考えいかにすべきだろうか。
2015/06/29
日本国憲法改正への挑戦
 1951年のサンフランシスコ講和条約締結後、日本国内では、保守系の自主憲法制定願望による「改正論」と、革新左派による「改正反対論」が対立してきた。しかし、最近になり新たな挑戦者が出現してきた。隣国の中国である。覇権・大国主義は、領土や領海の拡張を促すもので、ポツダム宣言を否定すると日本国民は始めている。どう対応すべきか。例えば、「中国に日本国憲法の趣旨を尊重してもらう」「時限修正条項を憲法に追加する」「同盟国である米国の外交・抑止力に依存する」などの選択肢がある。どれが正しいとはいいきれないところが悩ましい。
2015/05/18
敗戦後造られた日本の理念、平和主義だけでよいのか
 かつて米国の政治学者と国の理念について話したしたことがある。その時彼は米国の理念について、「地方自治・人権・社会貢献」と答えた。それに対し、日本の理念について「平和」だと答えようとしたら、その言葉のあいまいさに気付いたそこに暮らす人々の状況と関係なくどのような国家体制でも使用できるからだ。ある思想家は、戦後日本が作った理念を「平和主義」とした上で、「日本人は、欧米のように理念対理念の対決を好まないのではないか」と述べた。グローバル社会で行動するなら、日本は「平和主義」と言うばかりではいけないだろう。
2015/03/30
敗戦後70年を考える
 1995年、当時の村山富一首相が発表した「村山談話」に続き、安倍晋三首相は、ひとつの節目として、「安倍談話」を検討中だ。敗戦後日本の指導者は、連合国の記者から「軍需資源、国富の点で米英にかなわないにもかかわらず、進んで敵を知ろうとせず、こうすればこうなるという“科学的な頭”を持っていなかった」と指摘された。エネルギー問題はどうか。一部学者・マスコミも含めて無資源国であるにもかかわらず、供給先やコストを軽視し政策的に自由な選択可能という発想が目立つ。指導者を含めた日本人の「科学的精神」をもう一度見直さなければならない。
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2019年10月号


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