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矢島 正之 電力中央研究所研究アドバイザー |
1947年 生まれ 国際基督教大学大学院卒、電力中央研究所に入所。学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学特別招聘教授などを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力自由化」「世界の電力ビッグバン」「電力改革」など。 |
我が国電気事業のインフラ輸出 (2011/05/30) | |
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また、進出国の規制当局による許認可の不確実性や訴訟などのリスクも考慮しなくてはならない。政府間でも790億円の円借款の追加を約束したが、このようなパッケージがコスト的に引き合うのか定かではない。 さらに、コントロールできない政治的なリスクもある。鉄道分野の例であるが、英国のロンドンと主要都市を結ぶ高速鉄道の車両の更新は、約1兆円の大プロジェクトであったが、2010年5月に発足した保守党・自由民主党の連立政権が緊縮財政を打ち出し、2011年3月英国政府は、事業費を4割減とすることを発表している。約10年前から受注活動を行い、優先的交渉権を獲得した日立にとって痛手となった。このように、経済情勢の変化や政権交代で事業は突然縮小または無くなるリスクがある。 根本的な問題として挙げられるのは、電力会社のような国内でのサービス供給が主であり、海外での経験の少ない事業者が、パッケージ型インフラ展開において何十年というような長期のインフラのオペレーションを担うことが現実的かという点である。事業を収益的なものとしていくためには、正確な情報収集や現地の法制度(許認可など)へ精通していることなど多くの課題がある。とくに、長期に亘る収益の想定は容易ではない。需要下ぶれのリスクを現地政府が保証するなど有利な案件は少なくなってきているのが現状である。 海外展開を否定するつもりはないが、回収不能コストが発生する可能性を考慮するとリスクが高く、慎重を期する必要があるだろう。電力会社は、なによりも国内での供給に万全を期さなくてはならないという基本的な使命を負っている。これは、最近起きた我が国の原発事故で改めて認識させられたことである。 |
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