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矢島 正之 電力中央研究所研究アドバイザー |
1947年 生まれ 国際基督教大学大学院卒、電力中央研究所に入所。学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学特別招聘教授などを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力自由化」「世界の電力ビッグバン」「電力改革」など。 |
Power to Gas (2014/05/19) | |
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この3月にドイツに出張した折、政府や企業がPower to Gasのパイロットプロジェクトを積極的に推進しているとの話を聞いた。Power to Gasは、再生可能エネルギーの余剰電力を気体変換して貯蔵・利用する方法である。気体変換は、電力で水を電気分解し水素を取り出す方法と、取り出した水素をCO2と化学反応させ、メタンを取り出す方法とがある。 水素は、天然ガスパイプラインや水素ステーションに、メタンは天然ガスパイプラインに貯蔵する。ドイツでは、従来、再生可能エネルギーの余剰電力は、オーストリアなど周辺の諸国に輸出してきたが、それも限界にきている。これら諸国でも再生可能エネルギーは着実に増えてきているからだ。電力貯蔵には、揚水発電や蓄電池などが利用されてきたが、立地やコスト面で課題があり、Power to Gasがこれらに代わる技術として最近注目を浴びるようになった。ドイツでは、ガスパイプライン網が充実しているほか、ノルトラインヴェストファーレン州で200km以上の水素専用のパイプラインがすでに存在していることもPower to Gasプロジェクトを後押ししている。 Power to Gasには実用化までに様々な課題がある。水素を天然ガスパイプラインに貯蔵する方法では、どの程度水素を混入させても安全上問題がないかさらなる検証が求められている。また、エネルギー政策との整合性の問題もある。ドイツでは化石燃料から再生可能エネルギーに転換するEnergiewendeを2010年に決定しており、火力発電の廃止が進んでいる。このため、水素とCO2を化学反応させ、メタンを取り出す方法では、CO2が必要な場所で必要な量を確保できるか確かではない。さらには、技術開発がうまくいったとしても、水素やメタンの製造、輸送、貯蔵の経済性が確保されなくてはならない。このような課題があるものの、Power to Gasが実用化されれば、大容量の電力をガスの形で長期間貯蔵することが可能となる。そのためには、電力とガスの系統運用者間の協調が一層重要となってくるだろう。 ドイツでは、再生可能エネルギーの飛躍的な増大に送電線の新増設が追い付かず、数年前にはスマート・コミュニティへの期待が大いに高まった。最近では、さらにPower to Gasへの期待の高まりが見られる。「必要は発明の母」というが、再生可能エネルギーの増大で電力の安定供給が急務となっているドイツでは、技術のブレークスルーによりPower to Gasは現実のものとなるであろうか。 |
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