![]() |
矢島 正之 電力中央研究所研究アドバイザー |
1947年 生まれ 国際基督教大学大学院卒、電力中央研究所に入所。学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学特別招聘教授などを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力自由化」「世界の電力ビッグバン」「電力改革」など。 |
再稼働をストップすればわが国は安全か? (2015/07/21) | |
---|---|
原発再稼動に反対する活動が全国各地で行われている。とくに、全国に先駆けて再稼動する見通しとなった川内原発には、全国から原発反対活動に参加するメンバーが駆けつけ抗議を行っている。また、6月には、川内原発再稼動に反対する「ストップ再稼動!3万人大集会」が福岡市内で行われたとのことである。中央では,再稼動反対の国会前のデモや様々な反原発集会が開催され、著名な作家や芸能人も積極的に参加している。福島第1原発事故後、世論は大きく反原発に傾いており、最近のある世論調査では、再稼働に対して賛成27.9%に対して、反対70.8%という結果だそうだ。 福島第1原発事故の影響は、他国にも及んだ。同事故を受け、ドイツ、イタリアおよびスイスは原子力発電の廃止を決めた。しかし、これらの国は、もともと原子力の推進では一進一退を続けてきた国であり、他国とくに発展途上国では、推進の姿勢に変化はない。日本周辺の国々を見ると、2011年末における建設中の原子力発電所は、中国26基、韓国5基、台湾2基,ロシア9基に上り、今後の計画も目白押しである。注目すべきは、中国であり、2030年までに約140基、50年までに約500基の建設を計画しているとの情報がある。周辺国でこれだけ大規模な原子力開発が急ピッチで行われるようになると、当然あってはほしくはないことだが、重大事故の発生の可能性を完全に排除することはできないのではないか?そのとき、たとえ日本で原子力発電は全廃されていても、国境を超えて広範囲にわたって、事故の深刻な影響がないとは言い切れない。原発事故の影響から国民を守るのであれば、隣国における原子力発電の開発にもストップをかけなくてはならないが、わが国ではそのような動きはない。 同じようなことは、ドイツについても言える。ドイツは、22年までに原子力発電を全廃することを決め、再生可能エネルギー電源を大幅に増やすことを決めたが、その結果電気料金は上昇し、周辺国の安い原発による電力がドイツに輸入されている。ドイツでは原子力発電は無くなるが、このことが周辺国の原子力発電所を存続させる結果となっている。しかし、周辺国で原子力発電所の事故はあれば、ドイツも事故とは無縁ではいられない。 現実には、わが国周辺国における積極的な原子力開発は押しとどめることはできないであろう。現段階では、わが国は原子力技術面で優位な立場を有している。そうであれば、周辺国への技術協力を通じてこれら国々の原子力発電の安全性を向上させ、わが国においても最高水準の安全性を確保しつつ原子力発電を再稼動していくことが現実的であるとはいえないだろうか。日本では原発は要らないという意見が多数を占めしているが、冷静な判断が求められる。 |
|