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矢島 正之 電力中央研究所研究アドバイザー |
1947年 生まれ 国際基督教大学大学院卒、電力中央研究所に入所。学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学特別招聘教授などを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力自由化」「世界の電力ビッグバン」「電力改革」など。 |
シュタットベルケの破綻 (2016/06/20) | |
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最近わが国では、地域の経済活性化などの観点から、自治体が電気事業に乗り出す例が見られる。その際、参考にされるのが、ドイツの自治体企業シュタットベルケ (Stadtwerke)である。自治体による電気事業は、これまでに、山形県山形市、福岡県みやま市、群馬県中之条町などで設立されている。シュタットベルケは、市や(より中小)の自治体が単独または複数で大部分を所有し、住民に対しその生存に必要な公的サービスやインフラを提供する自治体企業の総称である。その従事している分野は、個々のシュタットベルケにより異なっているが、エネルギー供給(電力、ガス、熱など)、上下水道、情報通信、廃棄物処理、インフラ建設・維持(輸送、水道、港湾など)、公共施設(公園、遊園地、スポーツ施設など)、公共交通(路面電車、バス、鉄道など)と多岐にわたる。 ドイツでは、電力・ガス分野は、市場が自由化され、競争が導入されているが、多くの需要家は従来通りシュタットベルケから供給を受けている。需要家が供給事業者を変更せずシュタットベルケを選好しているのは、シュタットベルケのブランドや信頼感にある。その背景には、自治体がこのようなユーティリティ・サービスを伝統的に提供してきた歴史的な経緯があり、それを需要家が自然のことと受け止めていることが指摘できる。また、シュタットベルケも、顧客との密接なコンタクトにより、需要家の引き留めに努めてきたことも指摘できる。なによりも、シュタットベルケは破綻しないし、経営が苦しくなっても、パトロンである自治体が支援するから問題ないと地元の需要家が絶対的な安心感をもっていた。この「神話」もろくも崩れたのが、2014年のゲーラ(Gera)市のシュタットベルケの破産である。 ゲーラ市は、チューリンゲン州第3の人口10万の都市であり、同市のシュタットベルケは、持ち株会社の下に、エネルギー供給、電力・ガスのネットワーク、発電、公共交通、廃棄物処理などの子会社を有している。他市同様、同市のシュタットベルケも、エネルギー分野で獲得した収益を公共交通部門などの赤字の補てんに用いてきた。しかし、最近この内部相互補助が機能しなくなってきている。ゲーラ市が1996年に導入した発電施設Gera-Nordのコンバインドサイクル型コージェネレーション(発電容量7万8000 kW、熱容量14万 kW)が、再生可能エネルギー電源の増大で、09年以降卸電力価格が下落し、採算性が悪化したためである。 さらに、再生可能エネルギー電源の増大に対応して配電線の拡張が必要となってきているが、市やシュタットベルケの財政難から資金調達も順調ではない。このような財政状況のため、銀行が追加融資を断ったため、ゲーラ市のシュタットベルケは最終的に倒産を余儀なくされた。 ドイツでは、ゲーラ市のケースは氷山の一角に過ぎないと見られている。今後破綻する可能性のあるシュタットベルケは4分の 1ほど存在しているとの調査もある。これが現実のものとなったとき、シュタットベルケに対する市民の信頼感は失われ、わが国でも参考にされている地域密着型電力会社のビジネスモデルも崩壊するのであろうか。 |
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