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矢島 正之 電力中央研究所研究アドバイザー |
1947年 生まれ 国際基督教大学大学院卒、電力中央研究所に入所。学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学特別招聘教授などを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力自由化」「世界の電力ビッグバン」「電力改革」など。 |
グリーン電力 (2016/11/14) | |
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今年4月にスタートした小売りの全面自由化に対応して、小売事業者は、ポイント制やセット販売などの様々な販売戦略を採用している。しかし、再生可能エネルギー100%のグリーン電力の販売を目玉にする小売事業者は本格的には出現していない。その大きな理由は、固定価格買い取り制度(FIT)を利用して、再生可能エネルギー電力を販売するほうが、調達コストの回収が確実だからである。FITの下では、小売り事業者が再生可能エネルギー電力の買い取りに要する費用は、需要家が賦課金の形で支払はなくてはならない。これに対して、FITを利用せず、価格の高い再生可能エネルギー電力を需要家に売ろうとしても、需要家がそれを購入するかどうか保証の限りではない。そのため、小売事業者がFITを利用した再生可能エネルギー電力の販売を選好するのは当然だろう。しかし、FITの下で販売される電力は、再生可能エネルギー100%の電力ではない。 それでは、大部分の国で固定価格買取制度を採用している欧州では、再生可能エネルギー100%の電力の需要家への販売は、レアケースなのであろうか。これに関連して、各国のエネルギー規制官の欧州大の協調機関であるACER(Agency for the Cooperation of Energy Regulators )の興味深いデータがあるので紹介しておきたい。それによれば、欧州の主要都市でグリーン電力の提供は増大している。2014年末現在、調査した全料金メニューのうち、グリーンのラベル表示されていたのは、3分の1に上る。ドイツを例にとると、グリーン電力を購入する需要家は、2008年に5%だったのが、10年には9%、13年には17%と急増している。その背景には、需要家の環境意識もあるが、再生可能エネルギー発電は比較的安価に提供されるようになったことがあげられる。同国では、14年4月におけるグリーン電力の料金は28.41cent/kWhであった。それは、供給事業者を変更したときの料金(競争的料金)よりも高めだが、供給事業者を変更しない場合に適用される基本供給料金(標準料金)よりも若干安かった。 このことは、再生可能エネルギー電力の価格が高ければ、それを購入する需要家の数は限定的かもしれないが、値ごろ感が増せば購入する需要家は急速に増えてくる可能性を示唆している。わが国でも、地熱や陸上風力などの再生可能エネルギー電源の中には、火力電源並みのコストで発電可能なものも存在している。需要家が自由化市場で求めているのは、価格メリットだけではない。手頃な価格で買うことができれば、グリーン電力は、多くの需要家にとって、大変魅力的なはずだ。 |
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